2025.11.26
旨味で満足感を高める。食後の「何か食べたい」を整える食事の工夫
働く人と食の健康
調理の保存とコツ
「食後に甘いものが欲しくなる」「食べたのに物足りない」。この“追加の一口”を、意志の強さだけで止めようとすると続きません。
満足感は胃の容量だけで決まらず、味の満足感にも影響されます。そこで、日々の食事で使いやすいのが五味のひとつ、旨味(うまみ)です。
旨味を上手に効かせると、塩分や脂質を増やしすぎなくても料理に厚みが出て、食後の「まだ足りない」が起こりにくくなります。
ここでは、一般のご家庭で無理なく取り入れられる“味の設計”として整理します。
「甘いもの欲」「脂っこい欲」は、空腹だけが原因じゃない
食後の「何か食べたい」は、単純な空腹ではなく、次のような状態から起こることがあります。
- 味が単調で、食べ終わりの余韻が弱い
- さっぱりしすぎて、満足感が立ち上がらない
- 逆に濃すぎて、甘いもの・脂っこいもので“締めたくなる”
- 早食いで、満足感が追いつく前に食事が終わってしまう
つまり、我慢で抑えるより、最初から満足する味の組み立てにしたほうが現実的。ここで、旨味が効いてきます。
旨味は「だし」だけの味ではない
旨味というと昆布やかつお節のだしを思い浮かべがちですが、中心となる成分は身近な食材にもたくさんあります。
- グルタミン酸:昆布、トマト、味噌、白菜、チーズ など
- イノシン酸:かつお節、鶏肉、豚肉、魚介 など
- グアニル酸:干し椎茸、きのこ類 など
そして、旨味は“重ねる”と強く感じやすいのが特徴です。たとえば、トマト×鶏肉、昆布×干し椎茸のように違うタイプを組み合わせると、味に奥行きが出ます。
「だしを取らなきゃ」と構えなくても大丈夫。日々の素材の組み合わせで、旨味は作れます。
「満足感」を作る手がかりとして、旨味が注目されている
旨味は昔から料理の世界で使われてきた考え方ですが、近年は「食後の満足感」や「その後の食べ方」との関係も研究されています。ただ、この分野は“言い切り”が難しいところでもあります。
よく引用されるのは、食事の前にMSG(グルタミン酸ナトリウム)を加えたスープ/ブロスを飲むという短期の試験(単回〜短期間)です(※1〜※3)。
ここで押さえたいのは、次のポイントです。
- 食前に旨味のある汁物を入れると、その後の間食の選び方や「何か食べたい」気持ちが変わることがある(※1〜※3)
- ただし、食事量が必ず減るとは限らない(変化が小さい/出ない結果もある)(※3)
- 「旨味をとれば甘いもの欲が消える」といった万能な効果までは断定できない(短期介入のため)
つまり、旨味は“魔法のスイッチ”ではなく、食後の追加が起こりやすい場面を整えるための、味づくりの工夫として捉えると日常に落とし込みやすい、ということです。
食事の入口で「満足感の立ち上がり」を作る
では、ふだんの食事ではどう活かせばいいでしょうか。ポイントは、食後に何か足して帳尻を合わせるのではなく、食事の入口で満足感を立ち上げることです。
ここからは、日常的に取り入れやすい方法を紹介します。
1. 最初の一品に、汁物を置く
いちばん取り入れやすいのは、食事の前に汁物を一杯という形です。味噌汁でも野菜スープでもOK。だし・トマト・きのこなど“旨味の土台”があると、食事の満足感が早めに立ち上がります。
忙しい日は、手間を増やさなくて大丈夫です。
- だしパック+具少なめ味噌汁
- 冷凍きのこ+コンソメで即席スープ
- トマト缶+水+塩少々のトマトスープ
- 昨日の味噌汁を温め直して“先に一杯”
大切なのは、最初に汁物を一杯入れること。それだけで満足感の出方が変わります。
2. 「かける旨味」で薄味でも納得感
薄味にしようとすると、物足りなさから「何か追加したい」が起こりがちです。そこで、塩や油を増やす前に、旨味を上に重ねるのがコツ。
たとえば、こんな“仕上げのひと手間”で十分です。
- トマト+かつお節
- 冷奴+味噌(少量)
- 納豆+刻み昆布
- 卵料理+粉チーズ少量
- 炒めきのこ+しょうゆ少量(最後に香りづけ)
旨味が入ると味がまとまりやすくなり、食後の「締めが欲しい」を呼びにくくなります。
3. 旨味×香り×少量の油で“コク”を作る
「脂っこいものが欲しい」は、油そのものが必要というより、“コク”や“まとまり”が足りないサインのこともあります。油を増やす前に、旨味と香りを足して、最後に油を少量だけ。それだけで満足感が出やすくなります。
- トマト × オリーブオイル(仕上げに少量)
- 味噌 × ごま油(ほんの数滴。入れすぎない)
- きのこ × ナッツ(洋風なら/和風なら“すりごま”でも)
- しょうが・柚子・黒こしょうなど、香りをひとつ足す(汁物・和え物・炒め物に)
ポイントは「足すなら、まず香りと旨味」。油は“決め手”として少量で十分です。
食後の「甘いもの欲」が出やすい日は、食事の“締まり”を足す
甘いものが欲しくなる日は、意志が弱いというより、食事が軽く終わっていて満足の余韻が足りないことが多いです。だから「デザートを我慢する」より、食べる前に“食事の締まり”を作っておくほうがラク。
食事を用意するとき(外食なら選ぶとき)に、次のうちできそうなものをひとつ入れてみてください。
- 食事の入口を整える:最初に汁物を一杯(味噌汁・野菜スープなど)
- 主菜に旨味を足す:鶏・魚・きのこ・発酵食品をどこかに入れる
- 旨味の土台を置く:トマト/味噌/チーズなどを「一品のどこか」に使う
「甘いものをやめる」ではなく、甘いものが欲しくなる“穴”を作らない。この発想のほうが、無理なく続きます。
料理が決まる「旨味の材料」一覧
「何を足せば満足感が出るか」がわかると、献立は一気にラクになります。よく使う旨味食材を、使いどころと一緒にまとめました。
| 旨味成分 | 含まれる食材の例 | 使いどころ |
|---|---|---|
| グルタミン酸 | 昆布、トマト、味噌、白菜、チーズ | 汁物、和え物、トマト煮、下味 |
| イノシン酸 | かつお節、鶏肉、豚肉、魚介、煮干し | スープ、炒め物、だし代わり |
| グアニル酸 | 干し椎茸、舞茸、エリンギ | 煮物、炊き込み、蒸し料理 |
※うま味調味料(MSG等)は便利ですが、味付けが濃くなりやすい面もあります。
まずは食材の組み合わせで旨味を作り、塩分は全体で調整する方が、日常では扱いやすいでしょう。
食後の「もう一口」は、味の段取りで減らせる
食後に甘いものや脂っこいものが欲しくなるとき、意志が弱いわけではありません。食事の中で“満足感の立ち上がり”が弱いと、体は自然と「何か足して整えたい」と感じます。
今日からは、難しいことを増やさずに、次の3つだけ意識してみてください。
- 最初に汁物を一杯(満足感のスタートを早くする)
- 仕上げに“かける旨味”(薄味でも納得感を作る)
- 香り+少量の油でコクをまとめる(足しすぎず満たす)
旨味は、我慢の代わりに使える“味の道具”。食後の「まだ足りない」を、日々のごはんで整えていきましょう。
出典
(※1)意訳:MSG添加チキンブロスで高脂質・甘味スナック由来の摂取エネルギーが低下/Appetite/2014/Imadaら。
(※2)意訳:MSG添加野菜スープで高脂質の“食事系(savory)”食品からの摂取を含む摂取エネルギーが低下/British Journal of Nutrition/2016/Miyakiら。
(※3)意訳:MSG添加チキンブロスで空腹感・間食欲は低下したが、摂取エネルギーは変化しなかった/British Journal of Nutrition/2011/Carterら。
(※4)意訳:旨味受容とグルタミン酸×核酸の相乗効果に関する整理/Nutrients/2015/Kurihara。
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この記事の監修者
管理栄養士・料理家
ひろのさおり
お茶の水女子大学大学院在学中、フリーランスとして管理栄養士のキャリアをスタート。レシピ開発や執筆業、出張料理サービスに携わり、特定保健指導、セミナー・料理教室講師としても活動を広げる。現在は株式会社セイボリーの代表を務め、レシピ開発・料理撮影や、調理器具や食品の監修・販促サポートなどの事業を営む。テレビ出演などのメディア実績も多数。著書に「小鍋のレシピ 最新版」(辰巳出版)。