2026.03.12
「日本人の食事摂取基準2025年版」改定を食品開発に活かす―主要変更点と表示・設計への反映ポイント
食品表示と制度の話
「食物繊維の強調表示、基準値が変わったらしいけど大丈夫?」「鉄の耐容上限量が設定されなくなったって聞いたけど、配合設計はこのままでいいの?」
「日本人の食事摂取基準」は、国民の健康の保持・増進に必要な栄養素の摂取量を示す国の基準です。5年に一度改定されるこの基準は、食品表示基準の栄養素等表示基準値や栄養強調表示の基準値にも直結するため、食品開発・マーケティングの現場にとっても無関係ではいられません。現行の2025年版では、複数の栄養素で算定値や算定方法の見直しが行われ、それに伴う食品表示基準の改正も施行されています。
本記事では、食品メーカーの商品開発・品質管理・マーケティング担当者に向けて、商品設計と表示に直結する変更点を整理し、実務への反映方法を解説します。
2025年版の全体像と改定の背景
食事摂取基準は、健康増進法に基づき厚生労働大臣が定めるエネルギーおよび栄養素の摂取量の基準で、2005年以降5年ごとに更新されています。現行の2025年版は2023年度までに蓄積されたエビデンスをもとに策定され、令和11年度まで使用されます。
今回の改定には「健康日本21(第三次)」の方針が反映されています。従来の生活習慣病4疾患(高血圧・脂質異常症・糖尿病・CKD)に加え、骨粗鬆症とエネルギー・栄養素との関連が新たに整理されました。生活機能の維持・向上という視点が加わったことが、今回の改定の大きな特徴です。
食品メーカーにとって押さえておきたいのは、この改定が食品表示基準の栄養素等表示基準値(別表第10)の改正に直結し、さらに栄養強調表示の基準値(別表第12)にも波及している点です。2025年3月28日に食品表示基準の一部改正が公布・施行されており、パッケージに記載する「1日分の○%」や「高い旨」「含む旨」「強化された旨」といった強調表示の根拠が変わりうる状況になっています。
食品開発に影響が大きい栄養素の変更内容
改定された栄養素は多岐にわたりますが、ここでは商品設計への影響度が高いものに絞って整理します。
食物繊維の目標量と測定法の違いへの対応
食物繊維については、一部年齢区分で目標量が変更されたほか、食品成分表の測定法の違いが実務上の重要な論点になっています。
2025年版は日本食品標準成分表2015年版(七訂)相当の測定法で策定されていますが、現在使われている成分表は2020年版(八訂)です。八訂では食物繊維の測定法が変更されたため、同じ食品でも値が高く出る傾向があります。つまり、八訂の成分表で栄養計算を行った結果と、2025年版の目標量を単純に比較することは適切ではありません。
食物繊維の強調表示や主要訴求を行っている製品では、設計値の読み替えや分析値の解釈について、測定法の違いを踏まえた慎重な運用が求められます。
鉄の耐容上限量が設定されなかった背景
2020年版では成人男性で50mg/日、成人女性で40mg/日とされていた鉄の耐容上限量が、2025年版では設定されませんでした。背景には、従来根拠とされていた鉄沈着症(バンツー鉄沈着症)について、遺伝的素因の関与が示唆されていることなどがあります。2025年版では、鉄摂取と健康障害との定量的関係を踏まえて耐容上限量を設定できるだけの根拠は十分でないとして、設定が見送られました。
ただし、報告書は同時に、推奨量を大きく超える鉄の摂取は合理性がなく健康障害の可能性があること、鉄欠乏でない人が鉄摂取量を増やしても貧血予防にはつながらないことを明記しています。耐容上限量が設定されなかったことと、鉄を自由に配合してよいこととは異なります。鉄強化食品の開発においては、ターゲット層の摂取実態を踏まえた合理的な配合量の設定と、パッケージ上での適切な注意喚起が引き続き重要です。
ビタミンDの目安量の見直しと骨粗鬆症対応
ビタミンDは目安量の算定方法が変更されました。2020年版では骨折リスクを上昇させない血中濃度に基づいていましたが、2025年版では日光曝露による皮膚での合成も加味した北欧諸国の食事摂取基準を参考に再設定されています。
今回新設された骨粗鬆症の章では、カルシウムとともにビタミンDの重要性が改めて整理されています。フレイル予防や骨の健康をテーマにした商品開発では、ビタミンDとカルシウムの組み合わせは、2025年版でその位置づけがより明確になった訴求テーマといえるでしょう。骨粗鬆症予防は若年期からの栄養蓄積も重要であるため、高齢者向けに限らず、女性向け健康食品やスポーツ栄養食品でも検討の余地があります。
たんぱく質のエビデンスレベル変更
たんぱく質については推奨量そのものに大きな変更はありませんが、目標量のエビデンスレベルがD1からD2へ引き下げられました。これは、たんぱく質摂取量と健康アウトカムの関係を定量的に評価した研究がまだ十分に蓄積されていないことを反映しています。
プロテイン市場は拡大基調にありますが、報告書はたんぱく質の耐容上限量を設定し得る根拠が十分でないとしつつも、腎機能への影響を考慮すべきとの記述を維持しています。高齢者向け商品では、フレイル予防のためのたんぱく質摂取と、腎疾患リスクへの配慮のバランスが引き続き求められます。
栄養成分表示・栄養強調表示への実務的な対応手順
食事摂取基準の改定を受けて、2025年3月28日に食品表示基準の一部改正が公布・施行されました。商品開発やマーケティング担当者が確認しておきたいポイントを整理します。
実務対応チェックリスト
| 確認項目 | 対応内容 |
|---|---|
| 栄養素等表示基準 | 別表第10の改正値と自社製品の表示を照合する。改正後の基準値で「1日分の○%」の表記が変わる可能性がある |
| 栄養強調表示 | 別表第12の基準値改正により、「含む旨」「高い旨」「強化された旨」の要件が変わりうる。カルシウム・ビタミンD等で基準値が変動した栄養素は確認が必要 |
| 食物繊維の許容差 | 別表第9の改正で食物繊維の許容差範囲が見直された。低含有量の場合に試験室間誤差が大きくなりうるため、分析値の管理体制を再確認する |
| 年版表記 | 改正後の栄養素等表示基準値を用いる場合は、従前の基準と区別できるよう、「栄養素等表示基準値(2025)」等、2025年版に基づくことが分かる表示とすることが望ましいとされている |
| 添加物表記 | 栄養強化目的の食品添加物の表示免除規定が削除された。該当する添加物がある製品は表示の追加が必要 |
とりわけ見落としがちなのは、栄養強化目的の添加物に関する表示免除の削除です。これまでビタミンCやクエン酸鉄等を栄養強化目的で添加していた場合に表示が免除されるケースがありましたが、この免除規定が削除されたことで対象製品は表示の見直しが必要になります。該当するものがないか、早めに洗い出しを進めておくことをお勧めします。
機能性表示食品の届出・設計への影響
機能性表示食品は反復・継続摂取が想定されるため、関与成分の含有量設定時に耐容上限量への留意が求められています。鉄の耐容上限量が設定されなくなったことで、鉄を関与成分とする製品では配合量の妥当性をどう整理するか、改めて確認が必要です。
なお、2025年4月からは機能性表示食品制度自体にも改正が施行されています(健康被害報告義務化、GMP要件化、届出確認期間の延長など)。食事摂取基準の改定対応と制度改正対応を一体的に進めると効率的でしょう。
管理栄養士などの専門家との連携で訴求力を高める
食事摂取基準の改定内容を正しく商品設計やマーケティングに反映するには、栄養学の専門知識が欠かせません。今回の改定では数値の変更だけでなく、ビタミンB1やビタミンDの推定平均必要量の定義変更など算定根拠そのものの見直しも行われており、表面的な数値比較だけでは対応の優先度を見誤る可能性があります。
社内に管理栄養士がいる場合は、改定内容の読み解きと商品への影響評価をチームで行うことが理想的です。外部リソースを活用する場合も、管理栄養士や食品表示の専門機関への相談を早い段階で組み込むことで、手戻りのリスクを抑えられます。
特に有効な活用場面としては、栄養強調表示の根拠となる栄養計算の妥当性検証(七訂・八訂の差異を含む)、機能性表示食品の届出資料における科学的根拠の最新化、消費者向け情報提供コンテンツの栄養情報更新、営業部門への改定内容の社内共有資料の作成などが挙げられます。
まとめ 今すぐ始められる3つのアクション
食事摂取基準の改定は5年に一度の節目です。次回改定(2030年版)まで現行基準が使われることを考えると、この段階でしっかり対応しておくことが今後5年間の商品戦略に効いてきます。
- 自社製品の栄養表示・強調表示の総点検
改正された基準値との照合と、栄養強化目的の添加物表示の確認を全製品で行う - 食物繊維関連の配合設計・分析体制の再確認
七訂・八訂の測定法差異を踏まえた設計値の読み替えと表示運用を検証する - 管理栄養士との改定レビュー
自社ポートフォリオへの影響を洗い出し、機能性表示食品の届出対応が必要な場合は優先度を上げる
食事摂取基準の改定は、ともすれば「栄養士さんの仕事」と捉えられがちですが、商品の訴求力や表示の適法性に直結するテーマです。改定内容を受け身の対応で終わらせるのではなく、新たな商品コンセプトや訴求の根拠として活用していく視点が、これからの食品開発には求められるのではないでしょうか。
参考
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(令和6年10月公表、令和7年3月25日最終更新)
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)の策定ポイント」(令和7年2月)
- 消費者庁「食品表示基準の一部を改正する内閣府令」(令和7年3月28日公布・施行)
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この記事の監修者
管理栄養士・料理家
ひろのさおり
お茶の水女子大学大学院在学中、フリーランスとして管理栄養士のキャリアをスタート。レシピ開発や執筆業、出張料理サービスに携わり、特定保健指導、セミナー・料理教室講師としても活動を広げる。現在は株式会社セイボリーの代表を務め、レシピ開発・料理撮影や、調理器具や食品の監修・販促サポートなどの事業を営む。テレビ出演などのメディア実績も多数。著書に「小鍋のレシピ 最新版」(辰巳出版)。