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2026.02.18

菌活の次へ。ポストバイオティクスが変える発酵系商品開発の最前線

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食品表示と制度の話

菌活の次へ。ポストバイオティクスが変える発酵系商品開発の最前線

商品企画の会議で、こんな声が増えてはいないでしょうか。「乳酸菌は差別化しづらくなった。次に来る発酵・腸活素材は何か」…消費者の間でも発酵食品・腸活は2026年のフードトレンドで引き続き上位を占めており、そこにとどまらず新しい技術・素材を取り込んだ「菌活の次へ」の時代が始まりつつあります。

その中心にあるのが「ポストバイオティクス(加熱処理などで不活化した菌体・菌の代謝産物)」という概念です。乳酸菌そのものを届ける時代から、腸内細菌が生み出す有用物質に着目する時代へ。この変化は、食品メーカーの商品設計・訴求軸・機能性表示戦略にまで影響を及ぼしています。

本コラムでは、2026年に商品開発の現場で知っておくべきポストバイオティクスの最前線を整理します。

「菌活」ブームから菌活の次への変遷

日本における腸活ブームは、ヨーグルトや乳酸菌飲料、納豆などの発酵食品への関心として長く続いてきました。富士経済の調査では「腸活に関連する食品の原料成分市場」が2022年に464億円を記録(※1)し、その後も拡大基調が続いています。しかし消費者・バイヤー双方の目が肥えたことで、「乳酸菌入り」「○億個配合」という打ち出しだけでは差別化が難しくなりつつある、これが多くのメーカーが直面する現実ではないでしょうか。

こうした背景で台頭してきたのが「菌活の次へ」とも呼ぶべき動きです。プロバイオティクス・プレバイオティクスに続く第3のバイオティクスとして、ポストバイオティクスが世界的に注目されています。グローバルな機能性食品向けポストバイオティクス原料市場は2025年時点で約6億ドル規模とされ、年平均成長率11%超での拡大が予測されています(※2)。

国内でも富士経済の調査によると、ポストバイオティクス最終商品の市場は前年比2桁増のペースで推移(※1)しており、「殺菌乳酸菌(不活化乳酸菌)」から「短鎖脂肪酸」「HYA®」などの代謝産物まで、注目素材の裾野が着実に広がっています。

ポストバイオティクス・メタバイオティクスとは何か

まず用語を整理しておきましょう。

用語定義代表的な素材・成分
プロバイオティクス生きた有用微生物(腸まで届くことが前提)乳酸菌・ビフィズス菌(生菌)
プレバイオティクス善玉菌のエサとなる成分食物繊維・オリゴ糖
ポストバイオティクス不活化した微生物やその代謝産物殺菌乳酸菌・短鎖脂肪酸・エクオール※・HYA®
メタバイオティクス腸内環境全体の最適化を目指す次世代概念(研究段階)各種代謝産物の複合的活用

エクオールはイソフラボンを腸内細菌が代謝した産物ですが、商品によっては直接配合品も存在します。素材の整理については後述します。

ポストバイオティクスとプロバイオティクスの最大の違いは、「生きている必要がない」という点です。加熱殺菌された菌体(殺菌体)であっても腸管への作用機序が確認されている成分は多く、むしろ製造・保管上のハードルが低いという特長があります。生菌は菌数維持のための厳密な温度・品質管理が必要ですが、殺菌体はその制約がなく、高温調理を伴う製品(クッキー・ベーカリー等)にも配合しやすいのです。この加工適性の高さこそ、これまで「生菌では対応できなかったカテゴリー」でも腸活訴求が可能になるという、商品企画上の最大のメリットと言えます。

⚠ 「メタバイオティクス」のパッケージ表示は時期尚早
「メタバイオティクス」は科学的定義がまだ固まりつつある段階の研究用語です。商品パッケージや広告でこの用語を単独で使用すると、消費者への伝達効果が薄いだけでなく、行政から「その根拠を示せ」と問われるリスクがあります。現時点では「ポストバイオティクス」の概念を正確に活用したうえで、メタバイオティクスは「次世代の研究トレンド」として社内情報収集にとどめておく判断が実務上は堅実です。

市場をリードする成功商品の設計思想

国内で現在最も商業的成功を収めているのが、キリングループの「プラズマ乳酸菌(L. lactis strain Plasma)」を活用した商品群です。免疫機能の要となるpDC(プラズマサイトイド樹状細胞)に働きかけることを特長とする乳酸菌で、製品では殺菌体として配合されているケースが多い素材です。機能性表示食品として受理されており、「健康な人の免疫機能の維持」を機能性として訴求できます。2025年1〜6月の販売金額は前年同期比約2割増、パートナー企業を通じた素材導出の販売金額は前年比約6割増で伸長しています(※3)。

大正製薬・日本コカ・コーラ・花王など多数のパートナー企業がこの素材を採用した機能性表示食品を展開する「素材ライセンスモデル」は、開発リソースが限られる中小メーカーにとっても参考になる成功パターンです。その設計思想を分解すると、次の3点に集約されます。

  • 科学的根拠を先に固める(機能性表示食品の届出ベース)
  • 消費者が理解しやすい訴求軸(免疫ケア)に一点集中する
  • プラットフォーム型展開(素材提供→複数ブランドでの商品化)で市場を拡大する

一方、代謝産物系ポストバイオティクスとして注目されるのがHYA®(10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸)です。Noster株式会社が京都大学との共同研究を通じて機能解明を進め、製品化に成功した素材で、乳酸菌がリノール酸を代謝して生成するこの脂肪酸は、食後血糖値の上昇抑制への作用が動物実験で確認されており(※4)、内臓脂肪低減とのダブルヘルスクレームで機能性表示食品としても届出受理されています。世界初の食品向けサプリメント化を達成しており、代謝産物系ポストバイオティクスの先行事例として注目されています。

さらに短鎖脂肪酸(特に酪酸)の商品化も活発です。腸内細菌が食物繊維を発酵させて産生する酪酸は、腸管バリア機能の維持・抗炎症作用が期待されており、健康長寿との関連性からも研究が加速しています。

機能訴求の正しい表現と景表法の注意点

ポストバイオティクスを活用した商品開発で最も慎重を要するのが「どう訴求するか」という問題です。特に機能性表示食品制度を活用する場合、届出表示の範囲外の広告表現は景品表示法・健康増進法の違反リスクを孕みます。

消費者庁の過去の措置命令事例を踏まえると、以下の点が特に注意が必要です。

NGとなりやすい表現例なぜ問題か
“腸を治す” “改善する” など疾病治療・予防を想起させる表現薬機法・景表法の優良誤認表示に該当するおそれ
「○○するだけで誰でも効果」という訴求試験条件と乖離している場合に違法(葛の花事例)
「消費者庁承認」「国が認めた」などの表示機能性表示食品は届出制であり国の承認・許可ではない
届出した機能性関与成分以外の成分効果を強調食品表示法違反のおそれ

⚠ 「報告されています」の省略は厳禁
機能性表示食品の広告表現では、届出表示に準拠した「○○には〜の機能があることが報告されています」という文言を維持することが大原則です。スペースや見栄えを理由にこの「報告されています」を省略し、商品効果を断定する形にすると、それだけで不当表示とみなされるリスクがあります(健康食品産業協議会「機能性表示食品適正広告自主基準」(※5))。パッケージデザインや広告制作において、法規遵守をデザイン上の制約より優先させる体制を整えておくことが必須です。

なお、機能性表示食品制度を利用しない場合(いわゆる健康食品として販売する場合)、ポストバイオティクスの健康効果を商品に紐づけた形で訴求することは基本的に認められません。「腸の環境に良い素材を配合」「発酵由来成分を使用」程度の素材訴求に留め、ブランドの世界観を訴求する設計が現実的な選択肢となります。

管理栄養士や食品表示の専門家が開発初期から訴求表現のレビューに関与することで、リスクを最小化しながら最大限の訴求力を実現できます。

2026年の発酵系商品開発で押さえるべき5つのポイント

以上を踏まえて、2026年に商品開発・商品企画担当者が意識しておくべきポイントを整理します。

1. 素材選定は「加工適性」で考える

ポストバイオティクス素材の実務的な最大のメリットは加工適性の高さです。殺菌体・代謝産物は高温処理や低pH環境にも安定しており、飲料・菓子・惣菜など幅広いフォーマットへの展開が可能です。まず原料サプライヤーと連携し、自社の製造ライン(加熱工程の有無・温度・時間)との相性を先に確認することを推奨します。

2. 訴求軸は「免疫・代謝・エイジング」で棲み分ける

国内商品の成功例を見ると、免疫ケア(殺菌乳酸菌)・血糖値・代謝サポート(HYA®・短鎖脂肪酸)・エイジングケア(エクオール・ウロリチンA)という訴求軸が形成されつつあります。自社のターゲットに合わせた素材と訴求の組み合わせを設計することが、既存の「乳酸菌入り」商品との明確な差別化につながります。

3. 機能性表示食品への展開は早期から設計に組み込む

機能性表示食品として届出するには、機能性関与成分の決定・研究レビュー(SR)または臨床試験データの準備・届出書類の整備など、通常6〜12ヶ月以上のリードタイムが必要です。「あとから機能性表示食品にしよう」というアプローチは困難なケースが多いため、商品設計の初期段階から展開可否を検討することが不可欠です。原料サプライヤーが保有するSRデータの質・量を確認することが、投資判断の前提になります。

4. 「プレ・プロ・ポスト」の組み合わせをコンセプト化する

「プレバイオティクス(食物繊維)+プロバイオティクス(生菌)+ポストバイオティクス(殺菌体・代謝産物)」を組み合わせたシンバイオティクス的なコンセプトは、腸内環境サポートの包括的なブランドストーリーを構築しやすいアプローチです。Probiota 2025でも「包括的なバイオティクス戦略」が次世代の市場トレンドとして示されています(※6)。

5.「腸活」だけで終わらない機能訴求の横展開を探る

ポストバイオティクス研究の最前線では、腸内環境にとどまらない「腸脳軸(ストレス・気分・睡眠)」「代謝・体重管理」「アンチエイジング」への作用が報告されています。アサヒグループ食品が開発した「Lactobacillus gasseri CP2305」をADMが北米・欧州・アジア市場向けに展開する供給契約を締結したこと(※7)も、グローバルでのポストバイオティクス素材競争の激化を示す事例として注目されます。

よくある落とし穴と見落としやすいリスク

商品開発を進める中で、特に見落としが起きやすい3つのリスクを確認しておきましょう。

「ポストバイオティクス」という言葉そのものの表示

「ポストバイオティクス」は科学的・業界用語としての認知が広まっていますが、消費者向けパッケージや広告に単独で使用する場合、消費者に意味が正確に伝わるかという問題があります。また、この言葉が健康保持増進効果を連想させる形で使われると、景表法上の問題が生じるリスクがあります。機能性を訴求する場合は機能性表示食品の届出表示に基づいて行うことが原則です。

エクオールの「ポストバイオティクス」分類

エクオールは腸内細菌がイソフラボンを代謝して産生しますが、商品によっては腸内細菌の代謝を経ずエクオールを直接配合しているケースもあります。素材サプライヤーによってエビデンスの整理の仕方が異なるため、自社商品へのエクオール採用を検討する際は「菌体由来か」「代謝産物として配合しているか」「直接配合か」をサプライヤーに確認したうえで、訴求文章を設計することが必要です。

新規成分の機能性表示食品活用には時間がかかる

HYA®・ウロリチンAなど新規ポストバイオティクス成分の機能性表示食品への活用は、エビデンスの蓄積段階にあるものも多く、届出要件を満たすSRデータが揃っているかの精査が不可欠です。開発投資を決める前に、原料サプライヤーが保有するデータの量・質・論文の被引用状況などを必ず確認する習慣をつけておきましょう。

次の一手を考えるために

発酵食品・腸活市場は「乳酸菌入り」という打ち出しが飽和しつつある一方で、ポストバイオティクスという切り口からの差別化余地は大きく残っています。市場の成長トレンド、加工適性の高さ、機能性表示食品制度との親和性。これらが揃う素材・技術はそう多くありません。

2026年のアクションプランとして、まずは以下のステップから着手することをお勧めします。

  1. 自社の製造ライン(加熱工程の有無・条件)で活用可能なポストバイオティクス素材の情報収集
  2. 機能性表示食品への展開を狙う場合、原料サプライヤーが持つSRデータの概況確認(早期に着手)
  3. エクオール等の素材採用時は「菌体由来か・代謝産物か・直接配合か」をサプライヤーに確認
  4. 「乳酸菌入り」から「免疫・代謝サポート」への訴求転換に向けた競合分析と自社ポジショニングの整理

新素材・新コンセプトの商品開発は、訴求表現の設計が成否を分ける重要な要素です。管理栄養士や食品表示の専門家と開発初期から連携しながら、科学的根拠に裏打ちされた商品コンセプトを構築していくことが、2026年以降の差別化に向けた確実な一歩となるでしょう。

参考

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この記事の監修者

管理栄養士・料理家

ひろのさおり

お茶の水女子大学大学院在学中、フリーランスとして管理栄養士のキャリアをスタート。レシピ開発や執筆業、出張料理サービスに携わり、特定保健指導、セミナー・料理教室講師としても活動を広げる。現在は株式会社セイボリーの代表を務め、レシピ開発・料理撮影や、調理器具や食品の監修・販促サポートなどの事業を営む。テレビ出演などのメディア実績も多数。著書に「小鍋のレシピ 最新版」(辰巳出版)。