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2025.12.06

賞味期限・消費期限の正しい決め方。科学的根拠に基づく期限設定の実務ガイド

食品表示と制度の話

賞味期限・消費期限の正しい決め方。科学的根拠に基づく期限設定の実務ガイド

「自家製ジャムや焼き菓子を販売したいけれど、期限はどうやって決めればいいの?」こんな悩みを抱えている方は少なくありません。期限表示は単なる目安ではなく、消費者の安全と製品の品質を守るための重要な約束です。

この記事では、賞味期限と消費期限の違いから、科学的根拠に基づいた設定方法、小規模事業者でも実践できる工夫まで整理してお伝えします。

賞味期限と消費期限、何が違う?

食品の期限表示には2つの種類があります。

賞味期限は、定められた保存方法を守った場合に品質が十分に保たれる期限のこと。比較的日持ちする食品に使われ、期限を過ぎてもすぐに食べられなくなるわけではありません。

消費期限は、定められた保存方法を守った場合に安全に食べられる期限のこと。これを過ぎると衛生上のリスクが高まるため、期限内に消費することが重要です。

つまり、品質の劣化が比較的ゆるやかな食品には賞味期限を、日持ちが短く安全性の判断がシビアな食品には消費期限を設定します。いずれも、感覚や経験だけで決めることはできません。

なぜ科学的な根拠が必要なのか

期限設定で「このくらいなら大丈夫だろう」という感覚的な判断は許されません。見た目やにおいに変化がなくても微生物が増殖していることがあり、逆に風味が落ちても安全性は保たれているケースもあるからです。

また、万が一問題が発生した場合、「どのような根拠でこの期限を設定したのか」を説明できる必要があります。客観的なデータがあれば、消費者や行政に対して責任ある対応ができます。

期限設定に必要な3つの検査

期限を科学的に設定するには、以下の3つの検査を組み合わせて実施します。これらは一度だけ行うのではなく、保存試験において繰り返し実施し、時間経過による変化を追跡します。

理化学検査:水分活性、pH値、糖度、塩分濃度などを測定し、微生物が増殖しやすい環境かどうか、酸化や変色が進みやすいかを判断します。

微生物検査:一般生菌数、大腸菌群、カビ・酵母、黄色ブドウ球菌などを測定し、製造直後の衛生状態と保存中の微生物増殖の程度を把握します。

官能検査:見た目、香り、食感、味などを複数の評価者が確認し、数値では測れない「おいしさ」や「商品としての価値」を判断します。

理化学検査は環境を、微生物検査は安全性を、官能検査はおいしさを評価します。この3方向すべてがそろって初めて、適切な期限設定が可能になります。

経時変化試験と安全係数による期限設定

期限を決定する具体的なプロセスが「経時変化試験」(保存試験)です。先ほどの3つの検査を時間を追って繰り返し、いつ品質や安全性が保てなくなるかを見極めます。

経時変化試験の流れ

製造直後の製品を、実際の流通や保存が想定される条件(常温、冷蔵など)で保管し、一定期間ごとに理化学・微生物・官能の各検査を実施します。

検査間隔は食品の特性によって異なり、日持ちが短い食品なら1日ごと、長期保存が想定される食品なら1週間〜1か月ごとといった具合です。

いずれかの検査で基準を外れた時点を「最大保存可能期間」として記録します。

安全係数を掛けて期限を決定する

最大保存可能期間をそのまま期限にするのではなく、安全性を確保するために係数を掛けて短めに設定します。加工食品の場合、一般的には0.8程度の安全係数が目安です。

具体例:保存試験で10か月間品質が保たれた場合、安全係数0.8を掛けて賞味期限を8か月と設定します。

この余裕により、製造ロットによるばらつきや保管条件の変動にも対応できる安全な期限表示が可能になります。

小規模事業者でも実践できる工夫

「検査機関に依頼するのは費用がかかる」という声もよく聞きますが、小規模だからといって期限を感覚だけで決めることはできません。無理なく進めつつ、根拠を積み上げていく工夫をご紹介します。

✔ 保存条件を明確に固定する
常温保存なのか冷蔵保存なのか、開封前を想定するのか。条件が変われば保存性も変わるため、試験の前提を固めることが重要です。

✔ 類似商品を暫定的な基準にする
市販の類似商品の期限表示を参考に暫定的な期限を設定し販売を開始しつつ、並行して保存試験を進め、自社製品のデータに基づいて見直します。

✔ 原材料や製法が変わったら見直す
原材料の産地や配合、製造工程、容器包装が変わると保存性も変化する可能性があります。変更があった場合は期限設定を見直しましょう。

✔ 記録を残す習慣をつける
検査結果や判断の根拠は必ず記録に残します。日付、検査内容、結果、判断理由をまとめておけば、後から説明が求められた際にも対応できます。

✔ 必要な部分は専門機関を活用する
すべてを自社で行うのが難しい場合は、微生物検査だけ外部の検査機関に依頼するなど、重要な部分に絞って専門の力を借りるのも現実的です。

根拠ある期限表示が信頼を生む

賞味期限や消費期限は、製品と消費者を守るための安全ラインです。3つの検査で評価の軸を作り、経時変化試験で変化のタイミングをつかみ、安全係数で余裕を持たせる。このプロセスを理解すれば、期限設定は感覚的なものではなく、科学的で実務的な作業として取り組めます。

手間はかかりますが、根拠のある期限表示は消費者の信頼を得るための投資です。小さく始めながらも、データを積み重ねていくことが、長く続く事業の基盤となります。

参考

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この記事の監修者

管理栄養士・料理家

ひろのさおり

お茶の水女子大学大学院在学中、フリーランスとして管理栄養士のキャリアをスタート。レシピ開発や執筆業、出張料理サービスに携わり、特定保健指導、セミナー・料理教室講師としても活動を広げる。現在は株式会社セイボリーの代表を務め、レシピ開発・料理撮影や、調理器具や食品の監修・販促サポートなどの事業を営む。テレビ出演などのメディア実績も多数。著書に「小鍋のレシピ 最新版」(辰巳出版)。